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鳥居坂異聞 その3[都市伝説]

2004-12-09

六本木の巨大ビルに入っている某ベンチャー企業の名称を、右から逆に読むと「悪魔の十字架」という意味の英語になるらしい。

そうでなくても悲惨な事故で有名になったビルである。そのビルに到着してしまった。そう思うとなんだか胸騒ぎがした。

見上げてみても、美意識とは無縁な意匠である。別にかまわないけど。

中に入ってみる気もしないので来た道を直進した。いや、しようとした。このビルができるまえは、三叉路に横断歩道があったのだ。

ところがガードレールにはばまれて直進できない。左岸へわたることもできない。どうなってるんだ?

見回すと、歩行者はエスカレータで地下にもぐるようになっている。オッケー、グレイト。地獄へ堕ちろ、というわけか。ベイベー、恐怖の大王がお呼びだぜ。

しかし自転車ではエスカレータにも乗れない。にっちもさっちもいかない。しかたないのでガードレール沿いに進むと、ご丁寧にも自転車置き場になっていた。

ここに自転車を置いてどうしろというんだ、メーン?

さらに進むとオートバイ置き場になっている。もっと進むと、一時停止とか書いてある。

一時停止というのは、その先から優先道路に出る場合だ。ようやく進めるか、と思って前に出ると行き止まりである。絵に描いたようなバカ設計だ。

作家の原田宗典氏によれば、六本木というのは「んもう果てしなくバカを究めた街」なのだ。(『東京見聞録』)原田氏の六本木評は、見開き2頁に「バカ」が20回登場するほどの念のいったものだ。

もともと「六本木」自体が麻布の七不思議のひとつである。六本の木があったわけでもないのに六本木とはこれいかに、ということだ。地名からしてバカバカしい。

引き返すと振り出しに戻った。

強烈なデジャヴュにおそわれる。前にもこんな事があった。そうだ。このビルがまだ工事中のころ、芋洗い坂を下ったあと六本木通りに戻ろうとしたらたどりつけなくて、ひどいめにあったのだ。そのころは工事中だからしょうがないかと思っていた。

今になって分かったのは、どうやらこのビルは「めざすところにたどり着けない」が設計コンセプトらしいということだ。なんという恐ろしい陰謀だろうか。

それにしても、ビルが建つ前は直進できたんだから、車を下に通して、上は平らな歩道にすりゃいいだろう?さんざんここいら穴掘ってたのは、なんのためだ?死体でも埋めてたのか?

しかたなくもう一度トライする。情報科学ではバックトラックといいますね。理論通り枝刈りして、いやそれほど複雑ではないのだが、ガードレールにそって下っていくと、きれいにタイル張りされた道がトンネルに向かっていることが分かった。なにがなんでも地獄行きか。排気ガスで死にそうだ。

道は分かったけれども、そっちへいくと麻布十番までいってしまう。私は、あと200メートルほど直進したい。っていうか、ふつうそうだろ?ブラザー、ミーは六本木通りをまっすぐ行きたいだけなんだ。

自転車が通れないということは、車いすの人もダメということだ。いまどき、これほどのバリアー・フルな建築もめずらしい。世界遺産になれるかもしれない。

どうにもならないので、道なりに進んだ。そっちがそう出るならこっちにも考えがあるぞ。

なさけないことに報復のアイデアが浮かばない。すっかりバカにそまっちまったぜ。あれよあれよと惰性で下っていくと芋洗い坂の下に合流した自分を発見した。もうモノを考える力もない。

すごすごと芋洗い坂を上る。坂の上から次々にバカが転がり落ちてくる。とんでもない大回りだ。有酸素運動になっていいけど。ルンルン。

なにはともあれ、このビルのおかげで六本木のバカ度が急騰したことは何人もあらそえぬ事実であろう。東京に特大のバカ建築ができていた。そう思うと、私はちょっぴりうれしくもさえあった。

バカを究めるとは、なるほどこういうことなのか。

[つづく]
(2004-12-06 23:26:02)

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