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鳥居坂異聞 その2[都市伝説]

2004-12-07

[承前][2004-12-05]

建物の間のわずかなすきまから、高架橋が見えた。霞町の交差点だ。突然、車の喧噪が思い出のようによみがえる。

六本木からだいぶ坂を下ったところに出たわけだ。奇妙な道があるものだ。それにしてもひどく遠回りをしたことになる。なんだかキツネにつままれたようだ。

いまどきは西麻布とかいう地名になっているが、霞町になるその前は「墓地下」といわれていた界隈で、貧乏下宿の町だったらしい。

目指している六本木の巨大ビルは、昔の材木町から桜田町あたりである。左手は竜土町といって、寛永年間に竜が降りて昼でも暗闇になったと伝えられるところだ。

そのせいで道がのたくっているのだろうか。高架のおかげで、昼なお暗い谷底であることは当時と変わりない。

フランス料理の竜土軒があるのは、少し登った左手のあたりである。明治時代には島崎とか藤村とかの錚々たる文士たちが会合を開いていたことで有名な店であったが、今の店がある場所とは異なるそうだ。名探偵・明智小五郎が事務所を構えていたのも、たしか、このあたりだ。

などとあふれでる知識と教養に酸素消費量を奪われながらも、巨大ビルをめざして右側の歩道をトロトロ登る。ママチャリに抜かれた。

なぜか金髪の美女が後ろ向きで道をふさいでいる。ふりかえると顔がない!? いや、単なる厚化粧か。

驚いて追い抜かすと交番がある。警官が面をあげると、やはり顔がない。いや、これはガラスが光ったせいだ。きっとそうだ。それにしても妙だな。ジブリの狸合戦みたいだ。

後で思えば、これは何かの予兆であったのだが、そのときは登るのに一所懸命で考えている余裕がなかった。

坂を上りきったところが巨大ビルの入り口だった。

本当の恐怖は、そこからはじまった。

[つづく]
(2004-12-07 23:55:55)

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