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WinChalow

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2004-12-05 Sun

鳥居坂異聞 その1



東京は坂の町である。

この日は12月には稀な台風一過で、昼過ぎには真夏日となった。

自転車で赤坂・青山・六本木をまわってみよう。たまには都会を走るのもいいかもしれない。季節外れの暑さのせいか、そんな気分になる昼下がりであった。

赤坂見附で車から自転車を降ろす。赤坂見附から青山一丁目までは、バイク・メッセンジャー達を苦しめることで知られる登りである。ダンシングでひょいひょいひょいと登っていく。

鍛え抜かれた我が大腿2頭筋と、国産自動車が軽く2〜3台は買えてしまう私のロードレーサーにとって、この程度の登りはほとんど平地と変わりない。カーボンファイバーの乾いたキックバックを感じながら、快適に加速していく。

この下を地下鉄が通っているのだが、ここを登って終点の渋谷までいくと、地下鉄のくせにビルの三階の高さに出現する。

地下鉄たるものが、あまりの高空に出現するわけにもいかぬであろうから、地下でできうるかぎりの下降をこころみてはいるはずだ。それでもついに地下にはもどれず、ハズカシながらの空中出現となる。まあそのくらいの坂なのだ。

登ったあとは、でれでれと平らな道を外苑前まで進む。

人どおりの多いベルコモの交差点を渡ってなお進むと、左に入る狭い路地から六本木の巨大ビルが見通せるところがあった。

このあたりは建込んでいて、遠くが見通せることはめずらしい。見るところ、どうやら六本木まで水平な一本道のようだ。

ん?おかしい。

そんな道はないはずだ。いくら台風一過でも、道が通るはずもない。

今の人は知らぬであろうが、昔はこのあたりは、よくキツネやタヌキが出て人をたぶらかしたものである。青山といえば、荒涼たる野原に墓地があるだけの場所だったのだ。こんなところにに住みたがるのは、そういう歴史や地霊を知らないイナカモンだけだろう。

しかし真っ昼間からタヌキがビルに化けて見せることもあるまい。そう気をとりなおして、計画どおり六本木に向かうことにした。

車の通りもなく、快適に進む。静かな郊外のようなサイクリングロードである。国道の喧噪がまるで嘘のようだ。

え、まるで嘘?

最初のうちは、絵にかいたような高級マンションが建ち並び、駐車場にはこれまた高そうな、しかし見たこともないスポーツカーがとめてある。

シートがタヌキの毛皮張りだぜ。豪勢じゃねえか。

こころなしかケモノの臭いがしてくるが、気にしないで、どんどん進む。進むにつれて、なんだかちょっと次元が歪むような感覚におそわれる。

ふと気が付くと道の両側は古い木造の二階屋ばかりだ。昭和時代の景色だな。これは。

いやしかし。長年の経験からすると、ちょっとまずいぞ。潜在意識はアラート・モードに切り替わる。

後ろを振り返ると、国道はもう見通せない。道の両側は二階屋ばかりだというのに、六本木の巨大ビルも見えなくなった。い、いったいどこだ、ここは?

愛車はなんの抵抗もなく加速していく。道は下りながら右にゆるやかにカーブしている。

音がしないので、夢の中のようだ。真っ暗なトンネルを走っていると、いつしか上下左右の感覚がなくなるものだが、そんな空間識失当におそわれそうだ。

しまった。やられたぞ、これは。

[つづく]
(2004-12-06 03:39:57)
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